🏁 GB系ギアボックスの系譜 ― 英国モーターサイクルの心臓部
1950年代まで、イギリスのモーターサイクルではエンジンとギアボックスが別体構造でした。
小規模メーカーは独自のエンジンを持たず、外販ギアボックスを購入して組み合わせる文化が発達。
それぞれのブランドが最良の組み合わせを追求し、結果として独特の多様性が生まれました。
⚙️ 英国ギアボックス主要メーカー一覧(1940–1970年代)
| メーカー | 活動年 | 特徴 | 主な採用車種 |
|---|---|---|---|
| Burman Gear Co. | 1920–1973 | 英国最大手。高い信頼性と汎用性。 | AJS, Matchless, Ariel, Francis-Barnett |
| Albion Motors | 1923–1970s | 軽量2スト向け。Villiers系車両に多用。 | James, Francis-Barnett |
| AMC Gearbox | 1956–1966 | Burman改良版。AJS/Matchless専用。 | AJS 16, Matchless G3/G80 |
| Triumph Gearbox | 1938–1970s | 独自設計。ロータリープライマリ機構。 | Bonneville, Tiger, 3TA |
| Norton Gearbox | 1947–1960s | Laydown→AMC統合。堅牢な構造。 | Norton ES2, Dominator |
| BSA Gearbox | 1930–1972 | 自社製。SC型・STD型などを展開。 | B31, Gold Star, B50 |
| Villiers | 1913–1966 | エンジン+ギア統合供給。小排気量市場独占。 | James, Greeves, Cotton |
🧭 ギアボックス分離構造が生んだ「組み合わせ文化」
この分離構造によって、英国ではエンジン・フレーム・ギアボックスの専門メーカーが独立して存在しました。
たとえば、James=Villiersエンジン+Albionギア、Ariel=Burmanギアといった具合です。
こうした構造はチューニングやレース用特注などの自由度を高め、
後の「カスタムバイク」文化の源流となりました。
🔧 Burmanギアボックスの代表構造
- クラッチ:マルチプレート乾式
- 変速:右シフト(1Up/3Down)
- ケース材質:鋳鉄 → アルミ鋳造へ進化
- メインシャフト出力:テーパー固定
- 整備性:シフトシャフト独立構造で点検容易
Burman製ギアは「頑丈で信頼できる」ことで知られ、
MatchlessやArielなどでは競技用にも採用されていました。
耐久性が高く、クラブマンレースで半世紀を経ても現役稼働する個体もあります。
🕰 終焉とその後(1970年代)
1969年、Honda CB750が登場し、世界はエンジン内蔵トランスミッション構造へ移行。
これにより分離式ギアボックス産業は急速に衰退しました。
1973年、Burmanが倒産。Albion、AMCも吸収・廃業。
分離ギア文化は終焉を迎えましたが、その設計思想は今日の英国クラシック文化の礎となりました。
🔩 現在に受け継がれるGBスピリット
- Quaife Engineering(ケント州) — Burman設計を継承し、ヴィンテージレーサー用5速ギアを製造中。
- Harris Performance — BSAレプリカ/Gold Starプロジェクト向けパーツ供給。
- 英国クラブシーンではBurman・Albionレストア需要が継続中。
📜 代表スペック一覧
| 型式 | ギア数 | 重量 | 用途 |
|---|---|---|---|
| Burman CP | 4速 | 約12kg | OHV汎用 |
| Albion A10 | 3速 | 約9kg | 小排気量2スト |
| AMC 4S | 4速 | 約11kg | Matchless G3系 |
| BSA SC | 4速 | 約12kg | Gold Star, B50 |
🧩 総評:分離式ギアボックスがもたらした自由
「エンジンとギアを別々に設計できたからこそ、英国車は多様で面白かった。」
分離式ギアボックスは、メーカーの個性と職人の感性を最大限に引き出す仕組みでした。
その自由さが英国モーターサイクル黄金期を築き上げ、
いまなおヴィンテージ愛好家の心を掴んで離しません。
