⚙️ Burman Gear Company ― 英国モーターサイクル産業を支えた「縁の下のギア屋」
ヴィリアーズが「エンジン供給」の中心なら、Burman Gear Company(バーマン・ギア・カンパニー)は「トランスミッション供給」の主役だった。
1920年代から1960年代にかけて、BSA・Ariel・Matchless・AJSなど、英国を代表するメーカーの多くがBurman製ギアボックスを採用。
その堅牢性と整備性の高さから、今もクラシックバイク界では「Burman箱」として語り継がれている。
1. 創業と初期展開 ― “バーミンガムの歯車屋”として
Burman社は1913年頃、イングランド・バーミンガムで創業。
創業当初は自転車用ギア、そして三輪・四輪小型車のトランスミッションを生産していた。
1920年代後半にモーターサイクル向けの独立ギアボックスユニットを供給開始し、以後はAriel、Matchless、Velocette、Royal Enfieldなどの主要メーカーに採用されるようになる。
2. 特徴と構造 ― 信頼の「Burman箱」
Burman製ギアボックスは、分厚いアルミケーシングと精度の高いシャフトアライメントで知られた。
設計思想は「分解・整備・再組立てが容易」であり、クラシックバイク愛好家の中では“作業性の良い英国ギア”として高く評価される。
代表的なシリーズには以下がある:
| CPシリーズ | 1930年代〜ArielやBSAに採用。クラシックな4速構造。 |
|---|---|
| BAシリーズ | 戦後の汎用型。AJS・Matchlessに広く使用。 |
| BAP(Burman Ariel Patent) | BurmanとArielの共同設計。高出力対応モデル。 |
また、クラッチやキックギアもBurman製がセットで供給され、フレームメーカーが簡単に動力伝達系を構築できる仕組みが整っていた。
3. 提携とOEM供給 ― 英国モーターサイクルの「共有インフラ」
Burmanはギアボックス単体の供給だけでなく、各社専用仕様にも柔軟に対応した。
たとえば:
- 🏍 Ariel:SQ4(Square Four)向け専用BAPギア
- 🏍 Velocette:クラブマンモデルに軽量化ギアボックスを供給
- 🏍 Matchless / AJS:AMC合併後もBurman設計が基礎となる
その柔軟なOEM対応は、まさに「ギアボックス版のVilliers」と呼ぶにふさわしい。
4. AMCへの吸収と終焉
1950年代後半、BurmanはAssociated Motor Cycles(AMC)傘下に入り、
AJSやMatchlessに専用供給する体制となる。
しかし英国モーターサイクル産業全体の衰退とともに、1960年代半ばには実質的に生産を終了。
その技術者や図面の一部は、のちにVelocetteや独立整備工場へと引き継がれていった。
5. 現在の評価と修復シーン
クラシックバイク市場では、Burmanギアボックスは交換・修復部品としての価値が高い。
特にCPおよびBA型は中古でも£300〜£600前後で取引され、再メッキ・再研磨によるオーバーホール需要が続いている。
英国ではBurman専用のリプロパーツを製造する小規模企業も存在し、今なお現役で修理が行える数少ないクラシックトランスミッションだ。
6. Villiersとの関係性
BurmanとVilliersは直接の競合ではなく、むしろ補完関係にあった。
Villiersが2ストローク小排気量のエンジン+ギアセットを提供する一方、
Burmanは中〜大型4ストローク向けの独立ギアボックスを担う構図。
この「分業体制」こそ、英国モーターサイクル産業の裾野を広げた重要な要素である。

